【産経抄】2018-11-29
「フランケンシュタイン」というと、顔にギザギザの傷痕が走り、首にボルトが突き刺さった怪物を思い浮かべる人もいるだろう。実は怪物には名前がない。
▼1818年に20歳の英国人女性、メアリー・シェリーが出版した小説の主人公の名前である。若き科学者であるフランケンシュタインは、生物学の研究に没頭し、死体をつなぎ合わせ、生命を与えることに成功する。しかし、自分が造り上げた怪物の醜さに恐れをなして、逃げ出してしまう。
▼分子生物学の急速な発展によって、フランケンシュタインのような人物が、いつ現れてもおかしくなくなってきた。中国の南方科技大学(広東省深セン)の賀建奎(が・けんけい)副教授もその一人なのだろうか。
▼遺伝子操作の新技術「ゲノム編集」を受精卵に使い、双子を誕生させたと発表して物議を醸している。賀氏によれば、エイズウイルス(HIV)への免疫を持つよう遺伝子を改変した。困難な疾患を治療する唯一の方法だと主張している。香港で昨日開かれた国際会議で、改めて健康な子が生まれた、と述べた。
▼もっとも受精卵の遺伝子を書き換えると、影響は子孫にまで引き継がれ、思わぬ副作用が出てくる恐れもある。親が好みの外見や能力を選んで産み分ける、「デザイナーベビー」の誕生にもつながりかねない。専門家にとって、倫理的に「越えてはならない一線」だった。中国国内の科学者も、「人体実験だ」と激しい批判を浴びせている。そもそも成果の信憑(しんぴょう)性を疑う声さえある。
▼『フランケンシュタイン』では、主人公のあまりに無責任な振る舞いに怒り狂った怪物は、その家族や親友まで手にかける。賀氏には、200年前の悲劇の物語を熟読するようお勧めしたい。