【産経抄】2018-11-22
日産自動車の会長、カルロス・ゴーン容疑者(64)の逮捕には、謎が多い。その一つが時期である。なぜ、今週の初めだったのか。有価証券報告書への報酬減額の記載や不正な経費支出などは、数年前から行われてきた。
▼英紙フィナンシャル・タイムズの記事は、その謎を解くカギになりそうだ。ゴーン容疑者は、日産とフランスの自動車メーカー、ルノーとの合併計画を進め、数カ月以内に実現する見込みだった。これに対して日産の取締役会は、阻止する方法を模索していた、というのだ。
▼1990年代後半に経営危機に陥った日産が、ルノーからの大型投資で救われた。ルノーから送り込まれたゴーン容疑者の下で、日産は業績のV字回復を遂げた。現在は企業規模でも収益でも親会社のルノーをはるかに上回っている。
▼ところが資本関係を見ると、ルノーが日産株の43%を保有するのに対し、日産の持つルノー株は、15%にすぎない。ルノーの筆頭株主である仏政府は、かねて日産の経営に関与しようと試みてきた。それに抵抗してきたのがゴーン容疑者である。もっとも、今年6月にルノーの最高経営責任者の続投が決まったことで、仏政府と手を打った、との見方も出ていた。
▼主君が間違った行動を取ろうとすれば、諫(いさ)めて説得するのが江戸時代の武士の務めだった。それでも主君の行いが直らなかった場合はどうするか。歴史学者の笠谷和比古(かさや・かずひこ)さんによると、監禁したり隠居に追い込んだりする、主君「押込」の慣行があった。
▼ルノーとの合併が決まれば、日産は日本の企業ではなくなる。日産の経営幹部は、それを防ぐためにゴーン容疑者の不正を、捜査当局に内部通報した。いわば主君「押込」だったと解釈すれば、納得がいく。