【産経抄】2018-11-09
埼玉県川口市といえば、映画「キューポラのある街」を思い出す。かつての鋳物の街は近年、ベッドタウンとして発展してきた。約3万人の外国人が暮らす街としても知られる。全国でも、東京都新宿区、江戸川区に次いで3番目に多い。
▼市内に住む大川原孝裕さん(70)は5年前に退職し、現在はボランティアで彼らに日本語を教えている。生徒の国籍はさまざま。中国や韓国、ベトナムなどアジア諸国はもちろん、英国やドイツなどヨーロッパの国々も含まれる。微妙な政治や宗教関係の話題は、避けるよう気をつけている。
▼ありがたいことに、小欄を教材に使っていただいている。まず生徒にコラムを音読してもらい、大川原さんが、難解な漢字や慣用表現を解説する。たとえば今年6月19日のコラムの冒頭は「ナマズが地下で暴れると地震が起こる」である。大阪北部地震がテーマだった。
▼大川原さんは数日後の授業で、コラムのコピーとともに、自身で描いたナマズのイラストを配った。江戸時代に広まった日本独特の俗信について説明すると、日本文化に興味を持ち始めた生徒たちに好評だった。
▼ただ地震の少ない国から来た人たちの防災意識の低さが、以前から気になっていた。次の授業では、東京都北区にある「地震の科学館」へ引率した。地震の揺れ、煙の怖さを実体験してもらい、迫り来る大地震への備えの必要性を訴えた。
▼立冬を過ぎたというのに、関東地方の週末は日中20度を超えるポカポカ陽気となりそうだ。大川原さんのクラスはレベルが高いので、「小春日和」という言葉を知っている人がいるかもしれない。〈生きるの大好き冬のはじめが春に似て〉(池田澄子)。日本をもっともっと好きになってほしい。