【産経抄】2018-11-02
8代将軍徳川吉宗によって江戸町奉行に登用された大岡越前守忠相(ただすけ)といえば、名裁判官として名高い。「大岡裁き」の数々は、講談をはじめ、映画、ドラマでおなじみである。
▼もっとも歴史学者の故大石慎三郎さんは、むしろ「政策官僚」として高く評価していた。当時の幕府にとって、最大の懸案は物価の安定である。享保9(1724)年に幕府が出した「物価引下げ令」は、大岡忠相の意見を全面的に取り入れたものだった。
▼まず、まきや塩、酒など生活必需品を扱う商人に組合を作らせる。組織を利用して、相場の安定を図ろうとした。それでも油だけは値上がりが続いていた。大岡忠相は、油問屋たちが価格操作をしていた事実をつかみ、「過分の利得」を没収した(『大岡越前守忠相』)。
▼現代人にとって携帯電話は、油と同じくらい生活に欠かせない。動画視聴など通信量が伸びている事情があるにしても、料金が高すぎる。これが大半の利用者の実感であろう。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクグループの大手3社は、通信事業で1兆円規模の利益を出している。利用者への還元が十分ではない、との批判も根強い。
▼「4割程度、下げる余地はある」。菅義偉官房長官の異例の発言は、政府として引き下げを強く求める姿勢を明確にしたものだ。平成版「物価引下げ令」は、どうやら功を奏したようだ。最大手のNTTドコモが、来年度から通信料金を現在より2~4割程度下げると正式に発表した。
▼ただ、他の2社が追随するかどうかは不明である。利用者としては、複雑で分かりにくい料金システムの改革にも、取り組んでほしい。「これにて、一件落着!」と幕を閉じるまで、まだまだ紆余(うよ)曲折がありそうだ。