2018年11月14日水曜日

【産経抄】2018-11-14

【産経抄】2018-11-14


 道端で腰掛けて休んでいると、知らない人が話しかけてきた。「自宅は分かりますか?」。ご親切には感謝するけれど「心境は複雑」と、81歳の男性は記す。お米を研いだり、茶碗(ちゃわん)を洗ったり、70歳の夫が「所帯染みて」くると、妻の仕草(しぐさ)が「男っぽくなった」。

 ▼77歳の女性は、母親の夢を見た。「手っこつないで」二人で滝をのぼっていく。選者が交代しても、小紙「朝の詩」は、ますます快調である。俳句や短歌の欄も70歳以上の読者に支えられている。柴田トヨさんというスター詩人もいたなあ。

 ▼体が動かなくなり、もの忘れが多くなる毎日を笑い飛ばしている。ただ残念ながら、そんな心豊かな日々を過ごす高齢者ばかりではないようだ。「暴走老人」と恐れられる人たちの蛮行が伝えられるようになって久しい。高齢者の犯罪も増え続けている。

 ▼平成29年版の犯罪白書によれば、28年の刑法犯摘発者のうち、65歳以上の占める割合は20・8%と最も多かった。「暴行・傷害」は、20年前に比べて17・4倍にのぼるなど、粗暴化も目立つ。

 ▼なかでも横浜市神奈川区の商店街で34歳の女性を刃物で襲い、重傷を負わせた犯行の悪質さは際立っている。防犯カメラの映像は、71歳の無職の男が逃げる女性を追いかけて、何度も刺す姿をとらえていた。見ず知らずの女性から「金を取るためだった」と警察に話している。

 ▼「七十にして心の欲する所に従って、矩(のり)をこえず」と孔子は言った。平気で矩、すなわち人の道を踏み外した男に、昨日の朝の詩を読み聞かせたい。電車で隣に座った人にも街ですれ違った人にも親がいて、子供がいるかもしれない。21歳の女性の作者は言い切る。「この世に傷つけていい人なんて 誰一人いないのだ」