2018年11月8日木曜日

【産経抄】2018-11-08

【産経抄】2018-11-08


 咸臨丸が米西海岸に到着したのは、安政7(1860)年3月である。サンフランシスコに上陸した福沢諭吉にとって、見るもの聞くもの全てが新鮮だった。

 ▼初代大統領ワシントンの子孫の消息を聞いてみると、誰も興味をもっていない。徳川家康の子孫が一市民として暮らしているような社会のありように、何より衝撃を受けた。諭吉にとって輝かしい文明国である米国は、実は深刻な問題を抱えていた。

 ▼奴隷制度をめぐる北部と南部の対立である。諭吉たちが帰国した半年後、奴隷制に反対するリンカーンが大統領選で勝利すると、南部諸州の離脱の動きが加速する。翌年4月、ついに南北戦争が始まった。

 ▼米国の中間選挙は本来、トランプ大統領の2年間の仕事ぶりを審判する選挙である。実態はそんな生やさしいものではない。「民主党は国境を開いて、地域社会を不法移民であふれさせようとしている!」。トランプ氏は全米を飛び回って、共和党候補を応援し、民主党をののしり続けた。民主党もまた「反トランプ」に絞って選挙戦を繰り広げる。双方の支持者同士の対立も先鋭化して、米国の分断ばかりが目立った。

 ▼選挙結果は予想通り、上院で共和党が多数派を維持し、下院では民主党が過半数を奪還した。どうやらトランプ氏は今後も、国民統合をめざすつもりはなさそうだ。議会のねじれで内政が滞れば、民主党のせいにすればいい。議会の制約を受けにくい外交・通商問題ではますます剛腕をふるって成果を挙げ、2年後の再選につなげようとするはずだ。

 ▼4年にわたった南北戦争の死者は62万人に達し、米国史上最大の悲劇となった。21世紀の南北戦争は、あちこちで火種を抱える世界に何をもたらすのだろう。