2018年11月6日火曜日

【産経抄】2018-11-06

【産経抄】2018-11-06


 日本から約7千キロ離れた南太平洋のニューカレドニアといえば、まず「天国にいちばん近い島」という言葉が思い浮かぶ。森村桂(かつら)さんが昭和41(1966)年に刊行し、200万部のベストセラーとなった旅行記のタイトルである。

 ▼当時、観光客は皆無に等しかった。今では年間約12万人が訪れる。日本人は約2万人を占め、新婚旅行やゴルフツアーが人気である。そのニューカレドニアで、フランスからの独立の賛否を問う住民投票が行われ、「反対」が約56%を占め、「賛成」を上回った。

 ▼19世紀にフランスに併合され、ニッケル鉱が発見されると、白人の入植が進んだ。森村さんは先住民カナクの村で、酋長(しゅうちょう)の息子が村人を前に演説する場面に遭遇している。西欧文化に抗して、自分たちの文化を守ろうと訴えているように聞こえた。

 ▼カナクによる独立運動は70年代後半から活発化する。仏当局との激しい衝突を経て、ようやく今回の住民投票に結びついた。ただ欧州系住民の多くは残留を望んでいる。独立すれば、南太平洋に影響力を強めている中国の干渉を招く、との懸念も根強いようだ。

 ▼ニューカレドニアはまた日本人移民の歴史を持つ。明治から大正にかけて、ニッケル鉱山の労働者として渡り、その後定住した人も少なくない。戦争が始まると連合軍のフランスは、移民1世をオーストラリアの強制収容所に送った。家族を引き裂かれた日系人の苦しみは、戦後も長く続いた。今も約8千人の日系人が暮らす。

 ▼森村さんも、戦争の影を引きずった日系人との出会いをつづっている。彼らの助けがなかったら、旅行記の傑作は生まれなかった。日本人は「天国にいちばん近い島」の行く末に、もっと関心を寄せるべきだ。