【産経抄】2018-11-28
「いやや~、手、はなしたらこわい~!」。必死で叫んでも、おとうちゃんは容赦がない。「すまこっ、やる気を出さんと、なにもできん」「いけっ!」。銅版画家の安井寿磨子さんが、初めて補助輪なしで自転車に乗れた日の様子を、絵本に描いている(『こどもほじょりん製作所』)。
▼誰にとっても、人生の大事な節目の一つ。宮崎県高千穂町に住む小学2年の飯干唯(いいほし・ゆい)さん(7)もつい最近、その日を迎えたばかりだった。やはり父親と特訓を重ねた成果かもしれない。唯さんは、両親と祖父母、21歳の兄と暮らしていた。
▼周囲から仲が良いと見られていた家族は、一体どんなトラブルを抱えていたのか。26日朝、唯さんの父親をのぞく5人と、父親の知人の遺体が自宅で見つかり、県警は殺人事件と断定した。父親は町内を流れる川で遺体で見つかった。自殺とみられる。
▼『家族という病』という本がベストセラーになっている。殺人事件の件数が減り続けているなか、親族間の殺人の占める割合は半分を超えている。人間関係が希薄になるばかりの現代社会で、家族の結びつきだけは保たれている。だからこそ一度こじれると、文字通りの骨肉の争いに発展する。そんな解説を聞いたことがある。
▼25年前の小紙に、テレビドラマから日本人の「家族像」を探る特集記事が載っていた。「爆発したり、ぶつかったりというのは、お祭りで日常が少し活性化するようなもの」。脚本家の山田太一さんの言葉である。
▼確かに、家族の一人一人がもめ事を乗り越えて絆を強めるのが、ホームドラマの「王道」のストーリーだった。新聞のテレビ欄を開いて気づいた。もはやホームドラマ自体が、「サザエさん」ぐらいしか見当たらないではないか。