2018年12月4日火曜日

【産経抄】2018-12-04

【産経抄】2018-12-04

 昭和と平成の境目のころから、新聞記者の生活は大きく変わった。それまでは取材に出てしまえば、会社に連絡しないかぎり、行動の自由があった。

 ▼ところがポケットベルのおかげで、24時間いつでも呼び出されるようになった。他社の記者と居酒屋で一杯やっていると、一斉にピーピー音が鳴り響く。そこから始まるのは、公衆電話の争奪戦である。

 ▼ポケベルの人気が過熱するのは、テレビドラマの「ポケベルが鳴らなくて」が放映された平成5年ごろからだ。〈ポケベルが鳴らなくて 恋が待ちぼうけしてる〉。秋元康さん作詞の主題歌が大ヒットした。恋人同士の連絡手段として、欠かせない道具となる。

 ▼若い女性を中心に、数字や記号の表示機能を利用して、語呂合わせを楽しむ遊びも流行した。作家の井上ひさしさんによれば、日本語の拍(音節)の数は異様に少なく、しかも「ア」という拍には「あ」というように、仮名文字がきちんと対応している。この日本語の特質が生かされたという。

 ▼たとえば「0840」なら「おはよう」だと誰でも分かる。では、「12345780」はどうか。6と9がないから、「ろくでなし」という判じ物のような傑作も生まれた。井上さんは、日本語の「規範という厚い壁に風穴を空けようとしている」と評価していた(『ニホン語日記2』)。

 ▼もっとも、契約数が1千万件を超えた8年をピークにして、次第に携帯電話に取って代わられる。ポケベル事業を国内で唯一続けてきた会社が、来年9月末でサービスを停止する。ただし、形を変えて生き残る。ポケベルが使用する特有の電波が、建物の中に届きやすいという特長を活用して、災害時の通信手段として注目されているそうだ。