【産経抄】2018-12-03
首相官邸で開かれていた宮沢喜一首相主催の夕食会は、騒然となった。平成4年1月、訪日中のブッシュ米大統領が、食べた物をもどし、いすから崩れ落ちた。
▼5分ほどして、自分で立ち上がり退席した。米国側の発表によれば、インフルエンザによる胃腸炎だった。当時67歳だった大統領の肉体の衰えが、米国メディアの間で取りざたされたものだ。
▼その年の大統領選で、民主党のクリントン氏に敗れて、再選を阻まれてしまう。激務から解放されると、すっかり健康を取り戻したようだ。9年前の85歳の誕生日には、スカイダイビングに挑戦して話題となった。長男のブッシュ元大統領が見守る中、地上3200メートルから舞い降りた。
▼ブッシュ氏は第二次大戦中、爆撃機のパイロットだった。小笠原諸島沖で、日本軍に撃墜されてパラシュート降下を経験している。戦後は「趣味」として楽しんだ。東西冷戦終結の立役者でもあった、ブッシュ氏の訃報が届いた。94歳だった。
▼冒頭の夕食会では、ブッシュ氏に代わってバーバラ夫人がマイクを握った。その日の午後、ブッシュ氏は駐日大使とペアを組み、天皇陛下、皇太子さまとテニスの試合を行っていた。2連敗である。「ひどく負けたことから、疲れ果てたようです。ブッシュ家は負けるのに、慣れていないんです」。ユーモアあふれるスピーチは、会場の重苦しい雰囲気を一気に和らげた。
▼夫人は今年4月、自宅でブッシュ氏に手を握られながら、92年の生涯を終えていた。おしどり夫婦として知られた2人は、クリスマスのダンスパーティーで知り合い、ブッシュ氏が戦場から帰還してすぐに結婚式を挙げた。73年の結婚生活はもちろん、歴代大統領夫妻のなかで最長記録である。